コーチング研究所 では、より効果的にリーダーシップ開発を行うための仕組みや構造についての調査・研究を日々行っています。
前回の<第4回>コミュニケーション調査結果では、リーダーシップの現状を把握するには周囲の客観的な評価が集まる仕組みを持つことが大切であることをお伝えしました。
今回ご紹介するのは、コーチ・トゥエンティワンが提供しているリーダーシップ開発プログラムで行われている周囲の客観的な評価を集めてリーダーシップの現状を把握する「リーダーシップアセスメント」の結果と、それを元にしたコーチング・セッションについてです。アセスメントを受けた方が、実際にコーチと交わしたやりとりを中心にご紹介します。
■ 偏差値や点数で、自らのコミュニケーションを可視化する
「うすうす気づいてはいたものの、現実に直面させられるとちょっとショックですね」
これは、あるIT企業の管理職を務めるN氏が、「リーダーシップアセスメント」を受け、その結果を元にコーチング・セッションを行った際の第一声です。

N氏は、2年前から部下を4名持っており、管理職になった当初から、「自分の伝えたい事がなかなか部下に伝わらない」という課題を抱えていました。普段から意識的に伝える工夫はしているものの、なかなか成果が出なかったそうです。だからでしょうか。リーダーシップアセスメントを受ける前のN氏は、「今までも部下からフィードバックをもらうようなアセスメントは何回も受けてきたので、正直、今回も新しい気づきが得られるとはあまり思っていません」と、「リーダーシップアセスメント」に対してやや懐疑的でした。
では、そんなN氏のアセスメント結果はどのようなものだったのでしょうか?
その前に、リーダーシップアセスメントとはどのような結果が表れるツールなのかを、簡単にご紹介します。
このアセスメントではまず、対象者に69個ある設問に回答していただきます。並行して、対象者に対する各設問について上司、同僚、部下からも回答してもらい、その回答結果が図のように偏差値と点数によって表示されます。赤い部分は最も偏差値の低い3項目を示しており、青い部分は最も偏差値の高い3項目を示しています。黄色い部分は、本人と他者の評価に2点以上のギャップがあった項目です(点数は最高5点、最低1点)。
回答結果を約30ページにわたって偏差値と点数で表し、点数では本人と周囲の人の意識のギャップを、偏差値では他のリーダーと比較したあなたの特徴を明らかにします。

■ 自分と周囲の人の評価のギャップにより、課題の要因が鮮明に
この結果を元にコーチング・セッションはスタート。最初は、N氏が掲げていた課題について見ていきました。
「『提案や要望、主張の内容が明確でわかりやすい』については、自分でもできているとは思っていなかったし、周りからの評価は低いということも分かっていました」と、ややうつむき加減で声のトーンも低いまま話すN氏。
また、他にどのような印象を持っているのかを聞いたところ、
「同じく、部下からの評価が低かった『メンバーに感謝やねぎらいの気持ちを伝えている』については、自分では、チームメンバーに感謝の気持ちを伝えていたつもりだったのに、伝わっていなかったことが分かり、ギャップを感じています」という言葉が出てきました。また、「部下からの偏差値を見ても、最低値の30であり、他のリーダーと比較して自分の弱みであることが分かりました」と、予想と反していた回答にN氏は、残念そうな表情でアセスメント結果を見つめていました。
「リーダーシップアセスメント」は、こうした現実に存在するギャップに気づくことができる計測ツールです。点数により本人と周囲の意識を比較し、偏差値により項目ごとに自分が他のリーダーの中でどのくらいの位置にいるかを把握することで、より正確に自らの特徴を知ることができます。しかし、真の目的はギャップに気づくことではなく、それによって、未来の行動を変えること。この後も、コーチング・セッションは続きます。

- コーチ
- 「他の項目を見てみると、Nさんは周りのメンバーから、『苦しい状況から逃げず、立ち向かうことができる』など、仕事に対する姿勢を十分に認められていますね」
- N氏
- 「そうですね。自分でもその部分は力を入れているので、ほっとしています」
- コーチ
- 「では、そんなNさんが、『提案や要望、主張の内容が明確でわかりやすい』ことに関して評価が低かった要因は何だと思いますか?」
- N氏
- 「言い方もあるでしょうけど、一人ひとりに目標をきちんと伝えていないのが大きな要因ではないかな…。それぞれの認識している目標が明確でないので、何のために私が提案や要望・主張をしているのか、という意味が分からないのかもしれません」
- コーチ
- 「なるほど。確かに、『メンバーに明確な目標を提示している』は、Nさん自身、評価を低く付けていますね。でも、周りの方の評価はNさんが思っているよりも高いですよ」
- N氏
- 「あっ、そうですね。ということは、目標については、自分の思っている以上に周りのメンバーに伝わっている……。今、こうやって改めてアセスメントの結果を見てみると、『話し方、ほめ方などはメンバーの性格や特徴に合ったものである』が、自分の評価よりも周りの評価が低いですね」
- コーチ
- 「確かにそうですね。今、Nさんはその結果を見て、どんなメッセージを受け取っているのですか?」
- N氏
- 「今まで提案や要望・主張が伝わらなかったのは目標をきちんと伝えていなかったからだと思っていました。ですが、この結果から、話し方がメンバーの性格や特徴に合ったものではなかった、というのが最も大きな要因ではないかなと思い始めています。振り返ってみれば、私は人によって伝え方を変えるということはほとんど意識していませんでしたから……」
■ 「リーダーシップアセスメントが、次の一歩を生み出す」
N氏は、リーダーシップアセスメントの結果を受けて、自分の認識と周りの人の認識のギャップを把握したことにより、自らの課題に対する要因について新たな視点を手に入れました。そして、N氏はさらに、課題を解決するための一歩を踏み出します。

- コーチ
- 「Nさん、この結果を見て気づかれたことがあったようですね。では、Nさんの提案や要望、主張を明確にするためにこの一週間で一歩踏み出すとしたら何をしますか?」
- N氏
- 「まずは、メンバーのコミュニケーションタイプを把握します。メンバーのことを知らないことには対策の立てようがないので。具体的には、タイプ分け診断をやってもらうよう、今日中にメンバーには伝えます」
- コーチ
- 「メンバーのことを知る、そのためにまずはコミュニケーションタイプを把握するということですね。では、やってみて、また来週お話を聞かせてください」
- N氏
- 「はい、もちろんです。それと、タイプ分け診断をやってほしいと伝えるときにも、現時点で把握している部下一人ひとりの性格に合った伝え方をしてみます。自分でもどういう変化が生まれるか、今から楽しみになってきましたよ」
今回のN氏のように、課題だと思っていることは自分の予想と同じでも、それを引き起こしている要因については、周りとのギャップを把握することによって明確になることがあります。リーダーシップアセスメントはそれを実現可能にするツールです。
リーダーシップは一人だけで発揮できるものではなく、発揮する相手がいて初めて存在するものです。発揮する相手が、自分のことをどう思っているのかを知ることが、リーダーシップを発揮する第一歩と言えるでしょう。
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